«

»

部活動は変革できる

月刊生徒指導 1987年9月号(学事出版)での特集「部活動(運動部)の行きすぎを問う」にて小島 勇先生が執筆した内容を公開いたします。

この記事では学校の部活動の実態とその問題を指摘し、問題を改善するための内容が書かれています。

※この記事は当時の内容を維持しつつWeb用に修正を加えたものです。団体・名称等は当時のままとなっていますので読まれる方はご注意下さい。

部活動は変革できる

— 部活動変革の視点とプロセス —

ドクターストップ

現在の部活動の行きすぎに、「ドクターストップ」がかかっている。

1986年12月4日、朝日新聞の論壇でA氏(医師)は論じている。「子どものスポーツ障害を憂える」とし、小・中学生のいきすぎた練習に、専門医制度と実態解明の急務を課題として提起する。

医療界は、スポーツドクターの制度作りと並行し、児童・生徒のスポーツ障害の実態解明に乗り出すべきである。そして、メディカルチェックの基本的なルール作りが、緊急の課題だと考える。

「実態解明」されるべき場、対象は、どこか。

学校下での、顧問指導下での「部活動」である。

子どもの傷害を作り出している側は、学校の場であり、指導顧問教師なのである。本来は、子どもの心と身体の健全な成長を第一義の目的とする場と役割なのに、まったく逆の役割を演じている。子ども達の部活動傷害の大半は、顧問教師の指導下で起きていることなのである。問題を深刻なものとして受けとめていないのは、指導顧問だけなのである。子どもの健康と心身の健全な発達のために、スポーツがあり運動があることを理解できていないからである。

「大会」や「試合」に合わせて、運動を過重にしていくことが、「練習」であり「指導」であると思っているのである。ここには、子どもの身体と成長を考えていき、人間の身体全体を考えていく「運動の思想」が欠落している。やみくもに体を動かすことが「練習」だという貧困な運動観しかないのである。選手養成や勝利をめざすことがスポーツであるという、狭く、とらわれた思想が子ども達を覆っている。

子ども達も、がむしゃらに動き回ることが運動だと錯覚し、自分の健康や身体の調子を日々自覚する「身体の自覚者」に育てられることはない。顧問教師が己の「身体の自覚者」でないからである。

前述のA氏の言う「メディカルチェックの基本的ルール」を、子どもを指導する現場の教師が持っていないのである。

指導者への警告 —子どもの身体を尊重しない顧問—

スポーツ障害を治療し、現在の部活動を憂える医師の指摘を、部活動の指導顧問は厳しく受けとめる必要がある。また、教育に携わる教師、子どもの健全な育成に責任を持つ教育行政当局も、同様である。

部活動は「正規の教育課程の活動領域である」とか、勤務時間外の「教師の好意に任せた活動」とか、「情熱ある先生のサービス活動」とか言っている段階ではないのである。子どもの健康を阻害している「学校下」「教師の指導下」での深刻な問題なのである。

何の活動原則もなく、なんら運営上の規則がない部活動は、顧問教師の任意のまま展開され、その中で「子どもの身体」が壊れている。傷害も続出している。

治している医師側が、具体的な「スポーツ規制」の方法、条件を提起している。顧問の指導を問い正す。

「直球」でも投球数が多いとやはりひじを傷めます。少年野球の場合は、投手に「変化球」を投げさせない、1試合の責任回数を5回のところ3回にするといった規制が必要だと思います。 B氏(医師)

※1987年4月12日 朝日小学生新聞

B氏は、医学的な理解のもとで強い規制の必要を言い、学校での指導者に次の要請を出している。

「スポーツの目的は体をきたえることです。甲子園やプロを目ざすようなはげしい練習で体をこわすことではありません。どんなスポーツにもむく、健全な発育をした体づくりをしてほしい」

医師の指摘は続く。現場の指導内容まで踏み込んだ問題指摘である。顧問の指導の検証を迫るものである。

このような心の障害、からだの障害をうみだしている根本原因は、中学校の場合は、2つあるんだと思います。

1つは、スポーツは無条件に善であると、みんな思いこんでいる。

どんな形にしろ、なんでもいいからスポーツをやっていることはいいことだと思っている。中身を問わない。そのために、スポーツトレーニングだけが浮きあがって、ますます過熱していっている。(略)

2つめが、大人の介入・管理のしすぎだと思うんですね。

その結果として、1つには、鍛えすぎ、2つめは教えすぎ、3つめが評価のしすぎが出てくる。

1つめの「鍛えすぎ」は、練習量が多すぎる

1年365日のうち、362日練習して、150試合するなどというところもあるんですね。それで、心もからだもおかしくならないわけはないですね。指導側の問題として、何時間やったとか、何千メートル泳がせたとか、そこだけで指導力が評価されるところがある。

その練習内容も、小学校・中学校段階で、社会人や大学生のスポーツマンが行なうような本格的なものをやらせて、それがいい指導であると見誤っている。思春期が成長のまっさい中で、関節も力学的ストレスに弱いということを理解すべきなんですね。むやみな練習が逆に弊害を起こすそこを押さえる必要があります。(傍点筆者)

C氏(助教授、スポーツ医学)

「わが子は中学生」1987年5月号(あゆみ出版)

これは誰に発せられた内容なのであろうか。指導者である顧問に向けられた厳しい警告なのである。

長々と医師側の指摘を引用したのは、理由がある。これら医師の指摘の前で、堂々と、「教育的な配慮を持った指導」「子どもの心身の発達と成育を充分配慮した運動指導」を、充分展開できる教師が何人いるかという問いかけの場を作りたかったからである。次の問である。

「本当に、あなたは、子どもの健康を充分考えた指導をしているか」

「本当に、われわれ教師は、スポーツ傷害を生まないような、子どもの身体を大切にした指導を確立しているか」

「続出する子どものスポーツ傷害の苦しみに対して、教育の場にある教師としてなにも考えなくてよいか、なにも取り組まなくてよいのか」

医師側からの指摘、警告は、われわれ教師に向けられたものなのである。子どもの健やかな成長を促す立場にある教師として、責任をもって答えていかねばならぬ内容なのである。「子どものスポーツ障害を憂える」医師に、具体的に答えていかなければならないのは、われわれ教師なのである。

子どもの健全な成育のため、医師の問いかけに答え、連帯していかなければならない。

部活動変革は、まず子ども達の健康と身体への認識から始まる。教師が「子どもの身体」を認識することが、部活動変革のスタートなのである。

直視しなければならない部活動の非教育的課題

教育課程の中の「体育の授業」や「体育的活動」には、キチンとしたカリキュラムがある。子ども達の発達、成育を保証する指導基準があるのである。また、特別活動や遠足・林間等の子ども達の健康管理にも厳しい条件がつく。事故や傷害1つでも、強く引責が問われてくるのである。

活動基準、活動内容が「子ども達のため無理がなく」「目的が充分達成されるよう」に設定されている。

しかし、部活動は、違う。

同じ学校の下で、学校の教師の指導でありながら、ある時間から、まったく”顧問の恣意”のままになる活動である。

1969年(昭和44年)の指導要領の改訂で、「必修クラブ」と「部活動」とに二分されたところから、問題は深刻な事態になってきているのである。”顧問の恣意”的活動”教育の裏舞台”の隠れた活動に、問題課題は充満する。現在の中学校の教育課題と深くかかわる問題ばかりである。子どもの身体と健康の問題ばかりでなく、その人間関係、精神に与えている大きな問題もある。代表的事例だけに絞って取りあげる。

・子ども達の先輩・後輩の隷属関係

教育現場の中で、「人間関係の従属関係」はあってよいのか。”不平等関係”であり”差別”の問題なのである。「部の規律」と「従属関係(隷属関係)」はまったく違うものである。これは、教育上の見逃せない問題である。先輩・後輩関係の中で、多くの制裁、いじめ、暴力がある。また、同級生同士も同じ構造にある。

次の事件をみる。

女子中学生が投身自殺

「部員に冷たくされ」

千葉県八千代市八千代台東1丁目の京成サンコーポW棟で26日夜、習志野市内に住む市立四中3年の女子生徒(14)が飛び降り、全身打撲で間もなく死んでいたことがわかった。八千代署の調べでは「テニス部仲間に冷たくされた」などという内容のメモが残されており、同署は、自殺とみている。・・・・・・。

同日は朝7時半からのテニス部の朝練習に参加し、授業後の練習も夜6時過ぎまで出た。

この女生徒は1年生から女子テニス部(部員70人)に所属し、2年の夏から2人いる副部長の1人に選ばれた。

朝日新聞(6月29日)

リーダーの自殺である。この女生徒を追いつめた人間関係は、何なのか。

顧問は、リーダー生徒、および1人ひとりの心理、人間関係を改善したのだろうか。朝練と夜6時過ぎの練習は、この女生徒に解放を与えていなかったのではないか。部活動における「陰湿な集団関係」の影をみる。

教育活動の場で、人間関係は「平等であり、対等であり、自由でなければならない」のである。教師はそれをめざし、問題を克服しなけらばならない使命がある。いわんや、「顧問により差別、制裁、暴力、隷属」は、明らかな法違反、問題事項である。

(参考)

憲法18条「何人も、いかなる奴隷的拘束を受けない」

教育基本法第2条

(教育の方針)教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成する学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。

部活動に内在する問題は、部活動内に留まらず、現在の大きな教育上の課題である。部活動変革への取り組みとは、「子ども達の成長と健康」に対する責任を持つことのみならず、学校のあるべき人間関係、活動形態を作り出す教師の課題そのものである。

部活動変革には、教育の目的とする内容が具体的に実在する。部活動変革とは、教師の課題である。

部活動変革のプロセス

部活動変革は、1人の教師でもできる。顧問の指導が変われば「部活動」は変わるのである。

また、学校全体で取り組む実践もある。父母の生の声をアンケートで取り、変革の力にする実践もある。

とりあえず、ここでは4つの手順を上げておく。

1.民主的部活動指導(実践)を、校内でいつも見えるように提示していく。(主な例のみ項目とする)

  • (1)部活動通信を出す(日程、子どもの活動内容、顧問の励まし)。マネージャーの仕事としてもよい。通信は、全職員にいつも配布する。

  • (2)顧問が一緒に準備、片付けもする。

  • (3)練習は全員がやれる場面をつくり、1人ひとりに1度は声をかけ、評価し励ます。

  • (4)試合の局面を想定した練習にし、時間を切り攻守のメンバーがつねに話し合い検討する。

  • (5)レギュラー、部長は、全員の互選とする。

  • (6)学習会、レクリエーション、食事会を必要に応じて行う。

  • (7)定期的に部の父母会をひらき、話し合う。

2.全校生徒1人ひとりの部活動への声を集める。アンケートにし、子ども達の部活動現状を職員に提示する。

これは、生徒会指導委員会や生徒指導委員会等の公務分掌の中に入って提案する。問題の多い部や顧問がいる時は、無記名にする。同時に、父母も意見を言えるようにするとよい。いずれも個々の秘密厳守で取り組む必要がある。アンケートの中身は、学校の実態に合わせ、慎重に設定する。

3.部活動変革のモデルとなる運営、実践を校内の研究として取り上げていく。この取り組みも「校内研究部」か「生徒会指導委員会」等の分掌の中で行う必要がある。

  • (1)部活動問題の事実、実態をまず読む(新聞等)
    ※これだけでも、教師の部活動指導は「相対化」される。それほど、他人の部活動指導を考えたことがないのである。

  • (2)優れた指導、運営原則から学ぶ。
    ※学ぶものが多い実践を上げておく。

    • ○「サッカー先生奮戦記」岸智(学陽書房)

    • ○E氏の実践(本誌本号および「学級経営」№16、明治図書を参照。)

    • ○F氏の実践(本誌本号および「朝日新聞」(埼玉版 1986年7月6日)、「日本経済新聞」(1986年6月18日)を参照)

    • ○「部活動問題を考える」小島勇(学陽書房)(岸智氏との共著。Y中学校の部活動運営原則等、参考になる)

4.部活動の変革と子どもの活動の中からしくむ。生徒会活動の中で、子ども達全体のものにする。これも「生徒の活動を掌握できる委員会」のなかで可能な実践である。

  • (1)「部長会」で各部報告をさせ、さまざまな討議をしくむ。
    一番良いのは「予算編成会議」を時間をかけてやるのである。予算要求の理由、学校への貢献度、課題、運営原則等、自分達の部活動を部長、会計に語らせていく。長い討議の中で、民主的部活動でないものはどんどんボロが出てくる。

  • (2)全校生徒総会で「各部活動報告」をさせる。
    部長に「活動総括」「今年度活動報告」をさせる。細かければ細かいほどよい。
    「部長会」で行ってもよい。もちろん、質疑は自由に行わせる。

※(1)も(2)と同様、必要に応じて総会に持ち込む。

  • (3)部長会に「下校指導」を取り組ませる。
    定時に「生徒会本部」と一緒に集合させ、「窓しめ」「下校の勧め」「電気消し」を”下校音楽放送”とともに取り組ませる。
    生徒による自主管理であり、多くの教師の信頼を得る取り組みである。
    (学校管理責任の問題もある指導内容である。しかし、放課後の部活動終了を確立させるには、有力な方法である)

  • (4)各部の活動報告を取り上げていく。
    校内放送や生徒会の新聞に定期的に取り上げていき、クラブ活動を全校生徒の前にいつも明示していく。評価も前面に出していく。

5.全教師の合意の中で「部活動運動の原則」をつくる。子どもの健康と日常生活を考えた内容である。

  • (1)週の中に、月の中に活動休止日を明示する。

  • (2)活動時間を明示。

  • (3)部活動運営、それにともなう課題は、定期的に全職員に報告される。

  • (4)若い教師の情熱も保証され、子どもの学校生活をバランスのあるものとする。

※「部活動と勉強は両立できる」(学陽書房)きしとおる氏と筆者の共著、208ページ参照