学生の手による授業研修に関する実践研究
ー実行委員としての<授業指導力向上>と<授業アドバイザー>の取り組みからー
4年 斎田 優一
4年 細田 美香
指導 小島 勇 教員
1.はじめに
本研究は、授業指導力<注 1>向上を目的とし集まった平成 22 年度・第 13 回実行委員学生の授業研修の 1 年間の歩みを実践研究から取り上げたものである。
現在わが国では、質が高く、実践的指導力のある教員の確保が、教員養成上の重要な課題とされている。すで に、平成18年7月の中教審答申<注2>の中でも「量及び質の両面から、優れた教員を養成・確保することが極めて重要な課題となっている」とある。それに関連する授 業指導力の向上は、現職のみならず大学や教職志望学生にとっても重要な課題の一つでもある。
一方、本学は教育学部も教育学科も有しない理工学系大学のため、学生にとって教職や教育実習に対する対応が不十分であると受け止められている現状である。しかしそのような現状を受け止め、本学では(平成 14 年、小島教員の就任以来、同教員の指導・支援の下)、教職志望学生が実行委員となり、学生主体で「教育現場に通用する授業指導力の育成を目指した授業研修会」を継続させている。平成21年には学生(先輩たち)が、3月に『第11回授業研修大会』、また11月29日『第 2 回全日本教職学生授業研修大会』を開催し、内容も発展させている。
このような中、9月、筆者ら3年の(後期)教育実習事前指導科目「教育実践研究入門」(注:本稿では小島教員担当クラスを対象としている)の講義が開始された。小島教員の授業は、教育実習体験をもつ4年生の先輩たちが3年生の前で模擬授業を行い、また4年生が授業アドバイ ザーとして3年生を支援指導、それにより授業研究にとりくむ展開である。この授業研究体験で筆者らは、4年先輩たちの授業指導力のレベルの高さをまざまざと見せつけられショックを受け、自分たち3年生の力のなさを知らされるものであった。この体験から、筆者らも他の 同学年の仲間と共に、先輩たちがとりくむ『第2回全日本教職学生授業研修大会』に加わることになった。 この授業研修大会の参加を契機に、その後、筆者ら3年実行委員がスタートし、【A】平成21年11月より『教育実習に向けた<授業指導力向上>のための「半年間の取り組み」』、また、【B】平成22年6月より教育実習後、『後輩たちに対する<授業アドバイザー>としての「半年間の取り組み」』を実践するまでに至った。この1年間の授業研修のとりくみは、上記、中教審答申が課題とした「現職教員に必要とされた資質」の一つである授業指導力に、教職志望学生が主体的に応えた実践研究でもあ る。
本研究は、教師の実践的指導力の課題の一つ「授業指導力」の向上に対し、筆者ら実行委員たちの<1年間の授業指導力向上のための活動>から成長の実際、また成果と課題を検証したものである。
最初に2.で、本授業研修法の基盤としている<分かちあい>について、アンケート調査により効果を検証した。 次に3.で、【A】平成21年11月から平成22年5月(教育実習前)までの半年間で、「教育現場に通じる授業指導力」をどう身につけることができたのか、その方法と実践をアンケート調査と体験談から検証した。
さらに4.で【B】教育実習後、平成22年6月から12月の半年間で、実行委員学生が<授業指導者>から<授業アドバイザー>として育ち、また「自分自身の授業を改善できる実践研究者」として育ち、3つの学会発表にとりくむまでの取り組みと方法を、アンケート調査と活 動まとめから検証した。
これらにより5.まとめとして、授業のアマチュアからスタートする学生が、(1)教育現場に通じる授業指導力をどのように身につけられるのか、(2)授業研修を通じて、どのように授業実践者として成長できるのかを明らかにしたものである。
2.「学生主体の授業研修」と「授業指導力」を育てる<分かちあい>の検証
学生主体の授業研修を保証し、授業指導力を高める< 分かちあい>について検証した。
(1)授業研究の方法
(2)<分かちあい>を用いた授業研究の特徴
(3)<分かちあい>に関するアンケート調査
(4)まとめ
(1)授業研究の方法
①はじめに、授業者の学生(教師役)が模擬授業を行う。生徒役の学生は、授業を見ながら、授業の良い点と具体的な改善案のメモをとる
②次に、生徒役の人たちの<分かちあい>の3人グループをつくり、グループごと、授業の「良い点」と「課題に対する具体的改善案」を協議する。
③グループ代表者は、教壇側(前)に出て、グループで出た意見を発表する。全体協議では、具体的改善案またロールプレイもとりくむ。
この授業研究方法は、全て学生の手で行われることが重視される。学生同士が、授業研究における協働研修関係を育てていくことを目的としている。
(2)<分かちあい>を用いた授業研修の特徴
本授業研究の特徴は<分かちあい>である。<分かちあい>とは<気づき>や考えを共感的に傾聴する方法で ある。以下、<分かちあい>の方法、注意点である。
A <分かちあい>の方法
①3 人グループをつくる
②グループ内で司会者を 1 人決め、司会を中心に<分かちあい>を進行する。
③テーマにそって、自分の意見を発表する
④全員が発表したら、それで 1 テーマが終了する
B 分かちあいの注意点
①<分かちあい>で出た意見は、その場だけの意見とする。
②意見を聞いているときは聞くだけに徹し、リアクションは控える。
③意見を言いたくないときは、パスもできる。
これらの注意点は、学生同士に安心感と信頼感を生み だし、協議を行うことができるものである。
(3)<分かちあい>に関するアンケート調査
今年度の実行委員に対し、<分かちあい>に関するアンケート調査を行った結果を、以下に示す。また、Q1、 Q2とアンケートを取ったが、Q2に関しては、平成20年度の先行研究アンケートとの比較、検討も行った。
①本年度の実行委員に対するアンケート
(i) アンケート内容
- 対象者 → 4年の実行委員学生
- 実施日 → 平成22年9月3日(金)
- 回収数 → 回収数10 配布数10 回収率100%
(ⅱ)質問項目
②20 年生のアンケートとの比較
<分かちあい>の授業指導力について、平成20年の卒研生が行ったアンケートを、筆者ら実行委員も実施し比較検討した。(質問肢は2つとした。)
平成20年5月21日度実施
- 対象者 → 「教育実践研究」履修4年生(小島先生担当)
- 回収数 → 回収数23 配布数24 回収率96%
(平成21年小島研究室卒業研究より引用)
(4)まとめ
平成20年アンケートを、第13回実行委員に実施した結果、共通の特徴が現れた。 Q1では、回答者全員が<分かちあい>は、「授業指導力の向上に役に立った」と回答していることが特徴である。Q2では、一番多かった回答が共通して「新しい見方や考え方を共有できる」である。また同様に「他人から意見が批判されない」「自分の意見が言う場が与えられている」「他人の意見を集中して聴くことができる」も回答数の多さが目立った。二つのアンケートから、<分かちあい>は下記のようにまとめることができる。
①人から意見を批判されない
②自分の意見を言う場が与えられている
③新しい見方や考え方が共有できる
④他人の意見を集中して聞くことができる
①②により「安心感が生まれ、積極的な協議ができる」ということ、③④より「学生同士で指導方法、教材理解、生徒理解など授業づくりの課題を効果的に学びあえる」 と言うことができる。従って、<分かちあい>は授業指導力を高めるうえで効果的であり、<分かちあい>を取り入れた授業研究は、学生たちの「授業を見る力」「授業 をつくる力」を育てるものであると言えるものである。
3.【A】実行委員の授業研修-授業指導力向上のための「半年間の取り組み」
(平成 21 年 9 月~ 平成22年5月)
(1)「教育実践研究入門」の開始
2009年9月スタートの教育実習事前指導科目「教育実践研究入門」(小島クラス)の講義では、教育実習前の学 生が模擬授業を行うものである。その特徴は、①「学生 が主体的に取り組む授業づくり」と「学生の手による授業研究」、②「<分かちあい>を用いた授業研修」である。 また、授業全体を通じて、教育実習経験の4年生から模擬授業に対する具体的な改善や指導を受ける機会がある。これは筆者ら3年生にとって授業指導力の差を痛感させ、 また授業指導力の向上への憧れを刺激するものであった。
(2)『第 2 回全日本教職学生授業研修大会』
11月29日、第2回全日本教職学生授業研修大会が、本学理工で開催された。筆者ら下級生も実行委員として 加わる。ここでは上級生の企画運営力と、学内外に公開できる授業指導力レベルを実感し、これら実践力の向上の必要性を実感する場となった。
第2回全日本教職学生授業研修大会プログラム
・午前の部10:00~ 全体会I:開会式・模擬授業(学生) (分かちあい説明・練習、デモ模擬授業・ デモ研究協議)
11:10~ 分科会(授業研修)
12:00~ 遠隔授業研修会
12:30~ 昼食交流会
・午後の部
13:40~ 模擬授業(現職教員)
14:35~ 授業作りフェスティバル
16:00~ 全体会II:分かちあい・閉会式
16:30 全体終了
本大会の目的は、電大理工学部学生が中心となって、授業研修に取り組み、他大学生また現職の先生方はじめ教育関係者の方々と、授業研修を通じた交流の場とする。また、卒業先輩教師や現職の先生から学ぶ機会とする。そして参加者が、電大理工で取り組んでいる<分かちあい>による研究協議を体験し、共に学び育つ授業研修の祭典とするものである。また、第2回大会では、学外に向けwebによる遠隔・授業研修(端末機器による)の参加も可能とし、新しいクラウド時代にむけたICT教育活用の授業研究および授業研修の発信と交流もすすめる実践 研究もとり組んだ。((注)遠隔授業研修では、シスコシステムズ社、A-net 社の協力を受け、本理工と東京電機大付属中高校とを端末を利用したテレビ会議システムでつなぎ、授業研究を行った。その際、単に黒板を用いた授業ではなく、電子黒板を用いた遠隔授業を行い、ICT教育への関心、理解を深める機 会とした。)
さらにまた、本校卒業生の現職教員が招かれ模擬授業を実施するなど、学生たちにとって授業指導力を高める貴重な学びの場とっている。本大会実施の背景には、4年生の授業研究への意欲と、その上の先輩から受け継がれてきた授業研修会の伝統があり、また小島教授による支援指導が基盤にある。筆者ら3年実行委員は、先輩たちの模擬授業と企画運営力についていくだけで精一杯で あった。
(3)第12回授業研修大会
2010年2月27日、筆者ら実行委員が、初めて授業研修にとりくんだ大会である。まだ未熟な授業のレベルであったため学外に公開する力はなく、小島教授の提案もあり、学内関係者だけの研修会ですすめた。
12 回研修大会プログラム
・午前の部
10:00~ 全体会:開会式
10:10~ 電子黒板デモ授業
11:00~ 黒田先生による授業(講師 本校非常勤講師 黒田俊郎先生)
12:10~ 昼食会
12:40~ 昼の企画
・午後の部
13:20~ 授業研修
14:10~ 授業作りフェスティバル
15:35~ 全体会:閉会式
本大会で目的としたことは、まず実行委員学生が教育実習に通じる授業指導力の向上と、二つ目に、(教育現場に立つことを想定して)電子黒板も使用し、また、教具の必要性の理解を深めることを目標とした。筆者らも含め 実行委員たちは、自ら研修大会を開催することにより、企画や運営や準備などの力を身につける機会となり、また先輩からの自立を目指した。
本研修会では、黒田俊郎先生(数学科教育法担当)を招き、「教具を用いた授業指導」を学んだ。題材は、二次関数、重力を用いた実験である。優れた教師の指導、教材としての教具の豊かさ、また授業への興味関心を高め、理解を深める指導を体験から学ぶ機会となった。
筆者ら実行委員は、卒業する先輩の前で授業研究を行い、生徒役の先輩たちから鋭い改善点の指摘を受けるなど、よい授業をつくる準備と「授業練習は最低でも10回」の必要性を自覚していく機会となった。
(4)学生の手による教職ガイダンス
本理工では4月新入生ガイダンスの中、教職志望学生対象「教職課程ガイダンス」が行われる。教職課程の科目や履修方法、注意事項を事務担当が説明するものである。しかし平成22年4月8日教職ガイダンスは、90分のうち60分を4年実行委員学生が説明を行うという、 理工で初めての「学生の手によるガイダンス」となった。
筆者ら実行委員(この時は11名)が行ったガイダンスの内容は、「学生目線による教職科目の説明」と、「教育実習でとりくむ模擬授業」を実施とした。これは、教育実習に行く学生は、授業指導にあたる責任と自覚が必要であり、また教職志望学生はより一層、教育現場に通じる授業指導力を高める課題があることを体験的に理解させることを目標としたものである。ガイダンス参加者は、150余名であった。
①アンケート
ガイダンス参加者に、後日、アンケートを行った。結果の抜粋を、以下に示す。(アンケート実施は、ガイダンス終了2週間ほどの教職科目の講義前で連絡、授業後回収としたため回収率は低く、31部であった。)
・アンケート内容、8項目の質問調査
Q1 あなたの学系を教えてください
Q2 今回のガイダンスはあなたにとって役にたちましたか?
Q3 Q2 の質問において、①②を選んだ方は、どのような点で役にたちましたか?
Q4 (教育実習前の)模擬授業に興味を持ちましたか?
Q5 Q4 の質問において、①②を選んだ方は、どのような点で興味を持ちましたか?
Q6 今回のような、学生の手によるガイダンスについてどのように思いましたか?
Q7 Q6 の質問において、①②を選んだ方は、どのような点において良かったですか?
Q8 今回のガイダンス全体を通して、ご自由に感想をお書きください
ガイダンス参加者が「学生の手による教職ガイダンス」をどう評価したのかと、「模擬授業に関してどう感じたのか」の2点を重視し、Q2、3、4、5の結果を取り上げる。
Q3 Q2 の質問において、①②を選んだ方は、どのような点で役にたちましたか?(自由記述)
- 教職科目の取り方が分かった(16人)
- 様々な情報が得られた(2人)
- 先輩の授業などを聞けて、参考になった(2人)
- 学生視点で話を聞けて良かった(2人)
Q5 Q4 の質問において、①②を選んだ方は、どのような点で興味を持ちましたか?(自由記述)
- 教具があるだけで分かりやすさが違う(4人)
- 分かりやすい授業で好感が持てた(2人)
- 授業の進め方、構成の仕方など為になった(8人)
②考察
Q2 より、参加者の75%以上がガイダンスは役に立ったと回答している。この結果は、学生の説明が参加者にとって有益であったと言えるものである。また、Q4から、70%以上の学生が「模擬授業に興味を持った」と回答している。実行委員の行った模擬授業は、ガイダンスの学生に、授業実践の興味感心を持たせるものとなったと言える。
このガイダンスで 、実行委員は初めて150余名を対象とした模擬授業を行い、授業づくりの新たな課題の発見へとつながった。それは、大勢の学習者への授業、また教室ではない場所の授業では、授業展開の工夫や教材の利用の仕方や条件が異なるということである。実際に、本ガイダンスを行った場所は、大学の第2メディアルー ムで、黒板は可動式のホワイトボードがあり、150名を対象に授業を行う上では小さかった。そこで、スクリー ンを利用したパワーポイントによる授業を行い、学習者全員が授業に参加できるように工夫した。このように、本ガイダンスにおける授業実践を通じて、実行委委員学生は「学習者を意識した授業づくり」の必要性を強く感じることとなった。
(5)教育実践研究
4月から、4年通期「教育実践研究」の講義が始まった。小島教員担当クラスでは、3年次「教育実践研究入門」に引き続き、さらに生徒の興味関心を高める授業研究が課題とされるようになった。教育実習を目前に控えた学生らは、昨年の授業展開以上に緊張感をもって授業研究を行い、授業指導力をさらに高めることを目指した。とりわけ教職ガイダンスで実行委員として参加した学生たちは、学習者が主体となれる授業づくりの工夫をするように意識の変化が見られていった。
(6)教員採用説明会、「第 13 回授業研修大会」
5月1日 10時から本学理工学部で、埼玉県・さいたま市・神奈川県各教育委員会の指導主事を招いての教員採用説明会が行われた。この説明会も、小島教員の提案から実行委員学生による司会運営の役割が与えられ、各所属教育委員会ごとに分かれ実施となった。引き続いて第2部、11時から「第13回授業研修大会」が開催された。 筆者ら4年生実行委員にとって初めて学外者を招いた授業研修会である。
13 回大会プログラム
・第1部 教員採用説明会
10:00~ 指導主事紹介、説明会
・第2部 授業研修大会
11:10~ 開会式
11:20~ デモ授業、授業研究
12:10~ 授業研究
13:00~ 昼食
13:30~ 3Dデモ授業
14:10~ 現職教員による授業研究
15:00~ 授業づくりフェスティバル
16:10~ 閉会式
実行委員学生は、各クラスに分かれ(教採説明会の指導主事も参観いただき)、卒業生また指導主事らの前で授業を行い、研究協議と指導講評をいただいた。どの指導主事からも、授業者の学生たちに対し、鋭い指摘や改善 案がなされるなど多くの学びとなった。また同時に、「学生の皆さんが情熱を持って取り組む姿が印象的」。「このような取り組みが即戦力になる教員を育てる。力をどんどんつけて教職への道を進んで行ってほしい」、「皆さんの成長が目に見えて分かった。今後も参加したい」という高い評価もいただく機会となった。
また本大会では、卒業生による「現職教員の模擬授業」をお願いした。教育現場や子どもたちの様子も学び、その中でどのように授業に興味を持たせ、学習者が主体的に取り組みたくなるような工夫をいれていくのか生の授業を体験することができた。例えば、教具の人形がかわいいものであったり、授業に参加できていない生徒の名前を、授業の中でアドリブ的に使ったりする工夫なども見られ、柔軟に展開する現職教員の授業の実際を学ぶ機会となった。
さらに本大会では、小島研究室の実験的な試みとして「3Dアバターを用いた遠隔・授業研究」にも取り組んだ。 これは、過去に実施してきた大学のテレビ会議システムを利用した遠隔・授業研究や、学生個人の端末を利用し てきた遠隔・授業研究の発展として行ったものである。3D授業研究の取り組みは、後にとりあげる学会で発表し、注目を浴びた取り組みとなった。
本研修大会、実習を目前に控えた実行委員たちにとって、授業指導力のさらなる向上を刺激するものであった。
4.【B】実行委員の活動―<授業アドバイザー>と しての「半年間の取り組み」
(平成 22 年 6 月以降)
続いて、教育実習後の半年間の実行委員の活動を検証する。下記の表が、筆者ら実行委員の主な活動である。 ここの特徴は、実行委員が<授業者>から<授業アドバイザー>へ役割を広げた「半年間の活動」である。この活動から学んだ実践の成果と課題を検証した。
平成22年 活動内容
6月30日 | (1)教育実習事後報告会 ・教育実習体験者による模擬授業 ・教育実習体験談の報告会 |
7月28日 | (2)英語ベテラン教師による模擬授業体験(瀧沢先生による生徒の興味をひく授業) |
7月31日 8月1日 |
(3)ムービー塾 |
8月9日 | (4)先輩の授業見学(松山高校の授業見学会) |
8月〜 | ・3年生への授業づくりアドバイス ・学会準備 |
9月〜 | (5)「教育実践研究入門」でのアドバイザー(3年教育実習事前指導科目) |
9月25日 10月10日 12月16日 |
(6)学会発表 ①日本教師教育学会第20回研究大会 ②本教育方法学会第46回大会 <ワークショップラウンドテーブル> ③第2回東アジア教師教育国際大会(香港) |
(1)教育実習事後報告会
6月30日、教育実習から帰ってきた実行委員また数名の協力4年生たちが、「教育実習事後報告会」にとり組んだ(例年開催)。内容は、下級生対象に、校種別教科別に「教育実習体験時の模擬授業」と「教育実習体験報告」 から交流するものである。その成果と課題である。
①アンケート内容・結果
- 実施日・回収日 → 平成22年6月30日(水)
- 対象者 → 事後報告会参加者(教育実習未体験者)
- 回収数 → 回収数20 配布数20 回収率 100%
・アンケート内容、5項目の質問調査
Q1 今回の教育実習事後報告会に参加して良かったですか?
Q2 今回の教育実習事後報告会の運営は良かったですか?
Q3 4年生の模擬授業は授業づくりをする上で参考になりましたか?
Q4 4年生の実習体験は参考になりましたか?
Q5 教育実習に対する意欲がわきましたか?
上記の質問項目から、今回はQ3・4・5抜粋し、参加者の満足度を検証する。
②考察
教育実習事後報告会は、上記のアンケートQ3、Q4、Q5の結果より、下級生また今後、教育実習に行く前の学生にとって、実習への意欲と感心を高めた機会となっていることが明らかである。また、実習時の授業を再現することにより、授業づくりが重要な課題であることも下級生に示唆できていることが大きな成果である。
実行委員にとっては、本報告会を取り組み、また、アンケートにより、教育実習を振り返る機会となったこと、さらに授業づくりの新たな認識や課題が明確になったことである。その一つとして、教育実習を通じた授業実践では、生身の生徒と接することでより生徒のことを考えて、授業の実践的課題をとりあげていけるようになったことである。例えば、クラスの中で学習理解の差がある時、どちらを優先して授業を行っていくか、事前の準備の必要性、また、実際には瞬時に課題克服は難しかったことなど、多くの生徒に対して平等にコミュニケーションをとることの大切さと難しさを体験から学んできたことである。教育実習に行った後の授業実践と研修では、より生徒にそった協議や話し合いが中心となり、実習以前との変化がみられるものとなった。事後報告会の交流でも、生身の生徒から学んだことが多いことを、改めて自覚していく機会であった。このように事後報告会全体は、4年実行委員側にとっても、また教育実習に行く前の学生にとっても、それぞれの課題を理解しながら相互に学びあえる場となったといえるもので貴重である。
(2)プロフェッショナル教師の講演
7月28「教育実践研究」の授業で、瀧沢広人先生(元埼玉県の中学校英語教員経て、現在は小学校で勤務)による「英語の模擬授業」が行われた。教育現場のトップ実践教師の授業を学ぶものである。講演ですすめられた模擬授業は、多くの工夫が授業の中にちりばめられており、どのような生徒にとっても英語の授業が面白く感じ、また楽しんでとりくめる展開であった。履修生全員が、 滝沢先生の指導する子どもたちに自然になりかわって授業を体験するものであった。実際に、教具のひとつひとつが興味をそそるものであり、英語を苦手とする多くの学生の意識も変化する学習方法であった。筆者らも、教具は授業の効率のみを計るものではなく、生徒が授業により興味を示し理解を高め、楽しんでいくためのものであることを知らされるものであった。
(3)3D研究
7月31日・8月1日、東京電機大学(神田キャンパス・アネックス)の3D研究、ムービー塾に4名の実行委員が参加した。これは5月1日に実施した理工での「3D授業研究」を発展させるため参考にしたものである。ムービー塾では、DMD(Digital Movie Director)(主語、述語、目的語、セリフを入力するだけで、簡単に3Dアニメーションが制作できるソフト)を体験した。アバター操作では、良い点を幾つも見つけることができた。しかし、「3D授業研究」への適用では、長所は、プライバシーの保護や動作や表情が豊富であること、保存が可能であるということであるが、課題点も多く見つけられた。例えば課題は、予め決められた動きしかできない、黒板機能がない、台詞がカタコトであるということである。改めて3Dを活用した授業研究の難しさを感じた。
(4)県立松山高校での授業見学会
8月9日、埼玉県立松山高等学校で行われた授業見学会に、5名の実行委員が参加した。昨年度の実行委員である卒業生・鈴木圭一先生が定時制勤務で、今回、授業提案者として活躍するものであった。松山高等学校の現職教員である先輩の授業を受け、いろいろな生徒たちに興味をもたせる様々な題材への取り組みと工夫など、数学指導の実際の課題と醍醐味を体験する機会となった。
(5)「教育実践研究入門」での授業アドバイザー
①事前準備
9月スタートする「教育実践研究入門」で、4年実行委員は、3年生の授業アドバイザーの役割を、小島教員から提案された。その準備のため夏休みに、本講義の運営方法、予定作り、授業づくりのアドバイス方法など検討した。小島教員担当クラスでは、3年生の授業実践の支援指導を、4年生有志が行ってきた伝統がある。この指導により、筆者ら実行委員の授業力向上も明確にされたもので貴重な学びとなったものである。この貴重な体験の重要性と、先輩方からの支援指導への感謝の気持ちから、筆者ら実行委員たちも自然と3年生に対して好意的に支援指導をするとりくみとなったものである。
②授業の概要
9月「教育実践研究入門」の最初のガイダンス日。教育実習体験の4年生が、3年生の前で模擬授業を行う。次に、3年生をグループに編成し、実行委員と共に<分かちあい>研究協議にとりくむ。そして、4年生による授業検討と改善案のための協議とロールプレイ(再現指導)を展開した。学生主体の授業研究と研究協議を、実際の体験から学んでもらう機会とした。また本授業の重要な目的とされている「教育実習生としての意識と行動」の習得である。実習生は(また教員になる場合は特に)、授業実践でも学級運営でも指示待ちではダメであり、自らの判断と指導力が必要とされるからである。本講義では、授業実践以外にも、教育現場に必要とされる事前準備や打ち合わせが重視されている。実行委員の<授業アドバイザー>役割も、教育現場で必要とされる協働授業研究と、さらなる授業実践力育成のためのものである。アドバイザーとしての成果と課題を検証する。
③成果と課題
成果は2つあげられる。1つ目は、3年生への授業アドバイス活動は、実行委員自身が自らの授業課題を改めて感じとり、反省的に学ぶ機会となっていることである。 3年生の授業の工夫や課題を見つけ、検討や話し合いは、共同研究者自身の授業の振り返りとなる学びである。
2つ目は、3年生の意図に耳を傾け、個性や考えを理解したうえで、アドバイスすることができるようになったことである。アドバイスをするには、授業者の特徴や意図を見抜く力が必要である。筆者ら実行委委員も、この力を『教育実践研究入門』や他の活動を通じて、身につけてきたが、よりそれが生かされる機会となった。
また、課題としては、3年生の個性を潰してしまう危険性も同様に存在することである。3年生にアドバイスをすると、3年生が鵜呑みにし過ぎたり、アドバイザーの4年生の授業に似た授業になってしまうことも課題である。そのため3年生の個性が引き出しきれず、3年生に考えさせることができていないアドバイザーの取り組みの難しさも課題となった。後輩たちがアドバイスの中から、より向上し、自分らしい授業をつくれるよう、アドバイザー自身の資質向上が必要とされた体験である。
④考察
3年生の授業づくりアドバイザーの活動は、筆者ら実行委員が授業実践の全体と諸課題を振り返る機会となり、また学生同士が授業づくりに関して互いに学びあう互恵的研究と研修の機会の重要性を体験するものであった。これは、より良い授業を目指し、自分と他者が共に個性を認めた上で授業実践力を伸ばすことで、教師になってからも必要なものといえるものである。アドバイザー活動は、授業だけでなく、他者との協力関係や学級運営にも通じる相互の実践力を育てるものであるといえる。
(6)学会発表
①『日本教師教育学会第20回研究大会』(日大文理)
「日本教師教育学会」(9月25日:日大文理)で、実行委員3名が、「学生の手による授業研修についての実践研究-半年間で教育現場に通じる授業指導力向上の取り組み-」の研究発表にとりくむ。内容は、研究の動機と目的、授業研究の方法と特徴、半年間の取り組み(【A】)、また3D授業研究についてである。学会発表のために夏休みも含め約2カ月の準備となった。小島教員の指導の下、学会発表の内容、発表の仕方など学んだ。指導を受け、ここでも学生主体の取り組みが重視された。パワーポイント発表としたが、情報量が多すぎ、伝えたいことが不明確だったり、適切な言葉遣いができなかったりなど、改めて学会で発表する力が必要とされた。今までの先輩が残してくれた学会発表資料や実行委員の協力により、当日までに無事、完成することができた。この学会発表により、学会を肌で感じ、また研究的な言葉の使用 の重要性など、より授業研究の課題を知る体験となった。また、実行委員の半年間の成果と課題を、研究的な視点から見つめ直すことができた。
②『日本教育方法学会第46回大会』での<ワークーシ ョップラウンドテーブル>(国士舘大学)
10月10日、『日本教育方法学会第46回大会』が国士舘大学で開催された。小島先生の提案を受け、10日午後の学会<ラウンドテーブル>に4年生を中心に16名の実行委員がワークショップにとりくむことになった。テーマは、『教育現場に通じる授業指導力を身につける取り組み-学生主体の授業研究と研究協議から-』である。 学会のワークーショップとりくみは、実行委員にとって初めてであり、先輩たちの資料など参考もなく、一から案を練り検討した。その結果、大学でとり組んでいる授業研修の実際を紹介するものとし、模擬授業を20分、 <分かちあい>協議5分、全体研究協議を15分で行うものとした。当日、学会参観者も<分かちあい>協議を体験できるようテーブルも用意した。
ワークショップの成果と課題を、当日のアンケート調査から検証した。
(i)アンケート内容・結果
- 実施日・回収日 → 平成22年10月10日(日)
- 対象者 → <ワークショップラウンドテーブル>参加者
- 回収数 → 回収数14 配布数40 回収率40%
・アンケート内容、3項目の質問調査
Q1 今回のワークショップラウンドテーブルに参加して、楽しめましたか?
Q2 今後、今回のワークショップラウンドテーブルのような授業研修大会が開催された場合、参加してみたいですか?
Q3 <分かちあい>方式の授業を自分の授業などに取り入れてみたいと思いましたか?
Q4 Q4 <分かちあい>方式を取り入れた授業研究についてのご意見をご記入ください。
上記の質問項目から、今回はQ1抜粋し、参加者の満足度を検証する。また、アンケートの最後に設けた自由記述欄にあった意見の代表的なものも抜粋し検証する。
◎今回のワークショップラウンドテーブルについてご自由にご記入ください。
- 学生のみなさんの前向きな取り組みが良かったと思います。次以降も頑張ってください。
- 実際の生徒がいるというときに、どのように授業が変化するのか…生徒の学力・質という変数で変わる授業の内容も見てみたいと思いました。
- 「何を教えるか」問題の解き方の指導ではなく(塾と同じパターン)、数学的学力の低い、あるいはほぼ存在しない子どもたちにもその有用性が納得できるような授業にトライしてみてはいかがですか?「数学大嫌い」な子どもたちにも「わくわく感」や楽しさが伝えられるような概念を指導する授業です。
(ii)成果と課題
本学会でのワークショップの成果と課題である。
第1の成果は、1年前、授業のアマチュアだった実行委員学生が、学会の場で、自分たちで企画した実践研究の提案と発表ができるまで成長したことである。また第2に、学生の授業指導力を高める「<授業実践を説明>し、<模擬授業と研究協議を紹介>し、学会参加者と協働研修を行った」ことから、授業研修に対する様々な意見や課題の指摘など頂けたことも、大きな成果となった。アンケートからも、実行委員の活動を応援してくれたり、興味を示してくれたりする意見もある一方、とても厳しい意見もみられた。このように学会では、筆者らの見えなかったこと、知らなかったことを学ぶことができ、大学内でとりくんできた授業研修とは異なる視野を広げる機会となった。よって、学生が、学会で発表することの重要性を感じることできた。
次に課題では、大学でとりくんでいる<分かちあい>方式の授業研究を実行委員が、もっと研究的に理解し、深めていく必要があることである。実際に、筆者らが行っている<分かちあい>の本質を1回の学会で伝えることの難しさを感じ取った。今回の実行委員長、楢原は「本学生だけではなく、一般の人、他大学生、他大学教授にはどうすれば伝わるか、わかってもらえるか本質的な理解を求めるようになった」と反省的まとめとしている。また、アンケート自由記述にあるように、短い指導展開の中にも、数学の面白さや、なぜ学習するのか、数学の有用性についてもっと研究していく必要があるということである。また、「数学嫌い」の生徒に対して、どう理解させるのかを考えていく授業づくりも課題と感じた。
一方で、実行委員は、今回のワークショップでは(上記自由記述のような授業をすることではなく)、<分かちあい>方法をもちいることで、より良く授業研修と研究協議ができることを伝えたかったのである。教育現場でも、 一般的な授業研修の場では、課題の指摘や批判などが多くみられるため、教育実習生のような授業のアマチュアにとっては、授業研究のとりくみが辛いものになってしまいがちである。それに対して、<分かちあい>による授業研究は、批判的検討ではなく「よい点を共有し、課題に対する具体的改善案を開発する」方法である。そのため、どの学生たちも授業レベルも認めあいながら、未熟さに委縮することなく、相互に学びあい、指導力の向上を目ざし共に楽しんで授業研修にとりくんでいけるものである。また<分かちあい>により、様々な人の建設的意見と改善案が聞けるため、次の授業づくり意欲に繋がるのである。実行委員は上記のことを伝えたかったのだが、力量不足により、学会の参加者に十分には伝わらなかった。そのため、今後は学会でも研究的に伝えたいことを更に明確にし、しっかり表現していく力量を高める必要があると感じた。このような実践研究の資質を高めて初めて、学会研究など公の場で、異なる他者と協同的にとりくめるプレゼンテーションとなるからである。
③『第2回東アジア教師教育研究国際大会』(香港)
12月16日、3名の実行委員学生代表が、香港教育学院での第2回東アジア教師教育国際大会で、「<学生主体の授業研究>および<3D授業研究の開発>」の発表を行った。実行委員の一年間の授業指導力向上の取り組みと、上記、日本教師教育学会、日本教育方法学会での発表を発展させたものである。
国際大会準備では、発表内容とアンケートの英語訳も行い、準備段階で国際大会のとりくみの厳しさを体験した。その中、本学の先生方から英語訳の指導もいただき、また指導の小島教員、研究協力者の電大高校の山住教員、 中国語通訳のグリバハさんらの支援、また他の実行委員メンバーのアドバイスも得て、国際大会発表に至った。(国際大会では発表内容の準備だけでなく、海外の学会のため、パスポート手配、事務局との英語連絡、また渡航 準備も時間も大幅に必要であった)。
学会当日、香港やインドネシア、またニュージーランドからの参加者、現地学生スタッフなどの前で発表となった。会場のメディア機器トラブルや大会事務局側の連係ミスもあり、学生たちは発表前、不安が大きかったが、本番では無事発表、参加者から暖かい拍手をいただいた。
発表を通じて、1年間の実行委員の活動が、国際大会でも十分に通じる実践研究であることを改めて確信できた機会となった。また3名の実行委員が、実行委員代表として、自分たちの授業指導力の向上と成長を、国際大会場で実践研究の立場から発表したことは、実行委員たちの誇りと一層の連帯感を強めるものとなった。
5.まとめ
上記2つの半年間の取り組み、【A】『実行委員の授業研修-授業指導力向上のための「半年間の取り組み」-』および、【B】『実行委員の活動―<授業アドバイザー>としての「半年 間の取り組み」―』の実践研究を通じて、 学生たちが教師に必要とされる授業指導力をどのような活動を通して身に付けたのかを明らかにしてきた。
(1)授業指導力向上の取り組み
はじめに、【A】『実行委員の授業研修-授業指導力向上のための「半年間の取り組み」-』では、実行委員皆アマチュアの授業からスタートして<半年間>で、教育現場に通じる授業指導力を身についたことを、授業研修会とアンケートから実証してきた。この前半の期間では、授業をすることで精一杯であった実行委員が、教育実習に行くまでに、授業指導力を高め、また実行委員の仲間と共に授業練習をし、指導主事の先生の前で授業研修ができるまでに至っている。この期間の授業の課題としては、第1に板書や声の大きさなどの、教師の指導行為についての課題であり、第2として教材内容や授業構成など授業構成力が課題であると明らかになった。しかし、先輩らの支援指導もあり、それら課題に取り組めるようになった。また筆者ら実行委員が4年生になってから、自分たちで授業内容や指導課題また授業構成などの具体的改善案が出せるまでに成長した。それは、5月の『第13回授業研修大会』で、指導主事の先生方からの授業研修の良い評価を頂けるまで成長したことで実証できる。
その成長の基盤として<分かちあい>による協働研修が、授業指導力を高めるうえで効果的であったことがある。また<分かちあい>を取り入れた授業研究は、「授業の見る力」、「授業をつくる力」を育てるものであること がアンケートからも明確にした。<分かちあい>の特徴は、批判ではなく具体的改善案を挙げることが重要な点である。具体的改善案を挙げることで、授業実践も練習でも委縮することがないのである。実際に、小島教員担当の「教育実践研究入門」また「教育実践研究」で行われる授業研修は、真剣かつ楽しい雰囲気の中で学生が伸び伸びと行っている。以上から、<分かちあい>は学生の授業指導力の向上を具体化していることと言える。
(2)授業アドバイザーとしての取り組み
次に、【B】『実行委員の活動―<授業アドバイザー>としての「半年間の取り組み」―』では、実行委員学生が、「授業指導者」から「授業アドバイザー」として育ち、また「自分自身の授業を改善できる実践研究者」として 育ったことを、半年の実践研究とアンケートから明らかにした。それらは、教育実習から帰ってきてから行った「事後報告会」から始まり、「教育実践研究入門」での後輩指導、また3つの学会発表から実証した。
後半の活動の特徴は、実行委員が自分たちの授業指導力を高めるための活動から、更に自分たちの授業指導力を高めるため<後輩たちへの授業アドバイザー>として取り組み、また実践を学会発表する活動へと変化したものである。それにより学習者の興味関心を引き出す授業構成や意図また工夫も検討するまでになり、視点の異なる学会での発表体験にもとり組んだ成長である。これは今まで知らなかった授業課題や研究的視点を学ぶでもあった。また学会発表をすることで、研究的に伝えることの難しさ、また、指摘や批判も鋭くあることも学んだ。一方、<分かちあい>で育った筆者ら実行委員から見て、 学会の中で発表者の成長を考えて意見・批判をしている人は、どれほどいるのだろうかという疑問も生じた。いずれにしろ学生が学会発表することは容易ではなく、力量不足な面が多々あるが、とても多くの学びを得る機会となった。また同時に、学会体験から改めて、批判ではなく、改善案を開発する<分かちあい>の良さを感じた。
(3)1年間の授業指導力向上についてのまとめ
1年間の実践研究を通じて、学生が自分たちの授業指導力向上のため、相互に学び、意識を高め合い、また<分かちあい>により現職の教員や指導主事の先生と共に 授業研究を共有できた体験は、実行委員学生の成長をしめした実践研究として大きな意義を持つものである。
また教師の実践的指導力や役割は、教科指導だけでなく特別活動や総合的学習の指導など、より興味深い教材開発力や生徒に対する優れた指導など総合的な企画実行力やプレゼンテーションの資質も必要とされるものである。それに対して本稿では、実行委員が、授業研修大会や教職ガイダンスなどの企画実践から、その力を身につけ、学会発表によりプレゼンテーション力も習得する過程も明らかにしてきた。
本研究による「有志実行委員学生の取り組み」は、先の中教審答申に応えた実践研究としての意義のみならず、現在の大学の教員養成教育において「学生主体の学び」と「授業実践力向上の学習方法」の観点からも意義あるものとして提案できるものである。まとめとして、授業実践力を高めることが「教師に必要な実践的指導力」の基礎となるものであり、その向上のための授業研究と研究協議のとりくみから学生が共に成長できるものである。また、学生の授業指導力向上のとりくみとは、現職教員、教育関係者また研究者とも協働的な研修関係をつくり出し、研究的な出会いと輪をつくり出すものであると提案できる。
【注】
<注1>本研究内での授業指導力とは、「授業を見る力」、「つくる力」、「教える力」の3点から成り立っている。この3点は、教育実践研究入門で4年生から学び、また小島研究室の卒研生の先行研究も参照とした。
<注2>文部科学省中央教育審議会「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」平成18年7月11日。
【謝辞】本研究にご協力いただいた多くの関係者の方々、実行委員学生(新井健司、大塚悠莉子、小川俊、中里龍介、楢原章規、鳴海航、根岸清美、長谷川真弓、堀本航平、山田麻奈未、渡邉大雅、小曽戸貴典、今井陽介、清野純樹、小菅美紀)に感謝申し上げます。
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